Craft Journey #2 "Shigaraki - Clay"

Photo: Yuya Shimahara
Text & edit: Yuriko Horie

ネコと人が共に生きるランドスケープ。ネコと人の間に存在する自然なモノ。
newaが出会ったつくり手、産地、素材を巡る企画「Craft Journey」。第二回は、滋賀・信楽の「土」にまつわる旅をお届けします。

やきものの根幹となる土。

土選びや土づくりは、「成形技術」「窯」と並び、やきものの景色を大きく左右する重要な要素のひとつです。やきものに適した土の条件としては、成形しやすいこと、乾燥させて高温で焼いても形が崩れないことなどが挙げられます。それらの条件を満たした粘土が採れる土地の周辺で、やきものは発展してきました。

信楽も良質の土が採掘される産地の一つです。

分布のうち広島型花崗岩帯に属し、この地帯で取れる土はやきものに最適だといわれています。

信楽の土は、主に「蛙目粘土」と「木節粘土」に大別されます。蛙目(がいろめ)粘土は、粒状の長石(ちょうせき)と珪石(けいせき)が含まれた、ざっくりとした質感、粘性が高いことが特徴です。木節粘土は、古代湖に流れ込む川の周辺に生えていた木々が枯れ、腐敗し、倒れ、埋もれて、堆積したものを含んだ粘土です。もっとも良質な原土といわれ、こしがあり可塑性を生み出しています。

いずれも約400万年〜43万年前の「古琵琶湖層」から採取されます。

信楽陶器工業協同組合の橋本さんによると、蛙目粘土、木節粘土、そして、粘り気があり成形に役立つ「実土(みづち)粘土」、原土と原土をつなぐ役割を果たすガラス質の長石、これら4種を配合し、粘土がつくられます。

産地の土だけで品質を安定させることが難しい場合は、他産地の原土(赤土など)を30%ほど配合することもあるといいます。信楽陶器工業協同組合の陶土工場だけでも40種類のブレンドがつくられており、民間の陶土工場の場合は200種近くもの粘土をつくっているところもあるそうです。

他産地と比べ、信楽の土には珪石や長石が多く含まれることから、焼き上がりはざっくりとした荒い肌合いになります。

土の風合いを生かし、釉薬を使わないことでほのかな赤色に発色する「火色・緋色(ひいろ)」、高温で時間をかけて焼きあげることで長石などが白い粒状になってあらわれる「石爆(いしはぜ)」、やきものの表面に燃えた薪の灰が積もり、溶けて発色する「自然釉」など、人の支配下でない土と火が生み出す「自然」を見所としていることも信楽焼の大きな特徴の一つです。

良質な土が用いられているからこそ、信楽独自の、人間味のあるあたたかな表情が生まれているのです。

信楽の産地としての土壌は、約6,500万年前、地下に入り込んだマグマが冷え固まり、信楽陶土の母岩である花崗岩が広がったことにはじまります。

そして、信楽の土を語る上で外せないのが「古琵琶湖」です。

琵琶湖の周辺から三重県伊賀市付近までの南北約50kmにわたり広がる地層を「古琵琶湖層群」と呼びます。 琵琶湖の原型となる古代湖(古琵琶湖)が約400万年前に現在の三重県伊賀市の付近に誕生し、約40万年前にほぼ現在と同じ位置まで北上。湖の北の部分が東側に広がることで、現在の琵琶湖の大きさになります。琵琶湖の底には250mもの泥が溜まっており、約40万年間の環境記録が残されているといいます。

古琵琶湖層群には、湖の堆積物ばかりでなく沼や湿地の堆積物も含まれています。土砂や動植物の残骸などが堆積した古琵琶湖層に、花崗岩などの風化物が流れ込むことで、やきものに最適な粘土質へと変化していきました。

信楽の良質な土は、長大な時間とともにあり、「奇跡の土」とも形容される所以がここにあります。

【取材協力】

信楽陶器工業協同組合 https://www.593touki.jp

【参考資料】

『美術手帖』(2013.12月号)「やきものの素材や技法を知ろう 土・釉薬・窯の基本」
甲賀市「電子展示 信楽焼を支える粘土と長石の鉱山」 https://www.city.koka.lg.jp/15157.htm
滋賀県立琵琶湖文化館 「古琵琶湖層群の化石」 http://biwakobunkakan.jp/db/db_05/db_05_009.html
しがトコ 【400万年の古代湖#01】存在そのものが奇跡!?地質学研究者 里口保文さんに聞きました  https://shigatoco.com/toco/biwakofourmillion_01/
中川政七商店の読みもの 工芸百科事典  https://story.nakagawa-masashichi.jp/craft_post/112197
六古窯 https://sixancientkilns.jp/shigaraki/